囚人のジレンマとは?
「○○しなきゃいけないのは分かっているんだけど、つい××しちゃう」
ゲーム理論における有名な話です。
2人の男(囚人Aと囚人B)が共謀して「小さな犯罪」と「大きな犯罪」を犯しました。
「小さな犯罪」では証拠が見つかり2人とも逮捕されます。
懲役は2人とも2年が言い渡されました。
しかし、「大きな犯罪」については証拠がなく、2人を逮捕することができていません。
ここで、検事が囚人にある取引を持ち掛けます。
「『大きな犯罪』を自白すれば、お前を釈放してやる。ただし、相棒は懲役10年になる」
囚人Aと囚人Bの取り調べは別々の部屋で行われています。
お互いに連絡を取り合うことは出来ず、相棒が自白したかどうかは知ることができません。
- 両方とも黙秘を続けると、懲役は2年のまま(小さな犯罪の方の懲役)
- 囚人Aが自白すると囚人Aの懲役が0年に、囚人Bの懲役は10年に
- 囚人Bが自白すると囚人Bの懲役が0年に、囚人Aの懲役は10年に
- ただし、2人とも自白すると囚人AB両方の懲役が5年に
囚人B | |||
---|---|---|---|
黙秘 | 自白 | ||
囚人A | 黙秘 | 2年、2年 | 10年、0年 |
自白 | 0年、10年 | 5年、5年 |
※(◯年、×年)の部分は、Aが◯年、Bが×年の懲役という意味。
囚人Aの立場で考える
囚人Aの目線で、 黙秘と自白どちらが得かを考えてみましょう。
囚人Bが黙秘
- 囚人Bが黙秘
このとき、囚人Aはどうすればいいか?- 黙秘: 自分の懲役は2年
- 自白: 自分の懲役は0年
相棒が黙秘を続けるならば、自分も黙秘だと懲役が2年のままですが、自白してしまえば自分は即時解放されます。
つまり、自白してしまった方が得です。
囚人Bが自白
- 囚人Bが自白
このとき、囚人Aはどうすればいいか?- 黙秘: 自分の懲役は10年
- 自白: 自分の懲役は5年
相棒が自白するならば、自分が黙秘だと懲役が10年、自白すると懲役が5年。
つまり、自白してしまった方が得です。
相棒の行動が黙秘か自白かに関わらず、自分は自白してしまった方が得だということが分かります。
囚人Bの立場で考える
囚人Bの目線で、 黙秘と自白どちらが得かを考えてみましょう。
囚人Aが黙秘
- 囚人Aが黙秘
このとき、囚人Bはどうすればいいか?- 黙秘: 自分の懲役は2年
- 自白: 自分の懲役は0年
相棒が黙秘を続けるならば、自分も黙秘だと懲役が2年のままですが、自白してしまえば自分は即時解放されます。
つまり、自白してしまった方が得です。
囚人Aが自白
- 囚人Aが自白
このとき、囚人Bはどうすればいいか?- 黙秘: 自分の懲役は10年
- 自白: 自分の懲役は5年
相棒が自白するならば、自分が黙秘だと懲役が10年、自白すると懲役が5年。
つまり、自白してしまった方が得です。
相棒の行動が黙秘か自白かに関わらず、自分は自白してしまった方が得だということが分かります。
2人の行動を考える
囚人Aは、囚人Bの行動に関わらず自白した方が得です。
囚人Bは、囚人Aの行動に関わらず自白した方が得です。
そうなると、2人とも自白することになるでしょう。
その場合の懲役は、2人とも5年ずつの懲役を負うことになります。
さて、ここで最初の表を振り返ってみましょう。
囚人B | |||
---|---|---|---|
黙秘 | 自白 | ||
囚人A | 黙秘 | 2年、2年 | 10年、0年 |
自白 | 0年、10年 | 5年、5年 |
最初の状態は2人とも懲役2年ずつでした。
2人ともが黙秘を続ければ、懲役2年ですみました。
それが、いつのまにか2人とも自白して懲役5年ずつをくらっています。
自分にとって得になる選択をしたはずなのに、なぜ懲役が増えるのか……
では、黙秘をしていた方がよかったのか?
それだと、相手が自白してしまい、自分だけ懲役10年をくらっていた可能性が高いです。
じゃあ、結局自白するしかないですよね。
このように、最適な行動を取ったはずなのに、最適な結果とならない問題のことを「囚人のジレンマ」と呼びます。
新型コロナウイルスと活動自粛
新型コロナウイルスと活動自粛の話は、囚人のジレンマと似ていると思うんですよ。
みんな | |||
---|---|---|---|
自粛 | 活動 | ||
自分 | 自粛 | 2週間、2週間 | 数か月、0 |
活動 | 0、数か月 | 数か月、数か月 |
全員が一歩も外に出なければ、理論上は新規感染者がゼロになって、自粛期間が2週間で終わるはずなんですよ。
水道や電気などのインフラ関係者や、医療関係者は仕事をしない訳にはいかないので、完全に全員が家に引きこもるのは無理ですけどね。
あと、2週間経過後も発症せず自覚症状がないままウィルスを保有している人もいるだろうから、完全に0にはならないでしょうけど。
企業単位で考えてみましょう。
全社が一斉に休業すれば、2週間分の経済的損失は発生するけど、2週間後には活動を再開できたはずなんですよね。
だけど、なんだかんだでみんな働いてたじゃないですか?
そうなると、活動した企業は売り上げ確保、休業した企業は売り上げ0みたいな状態になるわけですよ。
しかも、2週間で終息しないから自粛期間がさらに伸びるわけです。
休業した人にとっては、囚人のジレンマの
「自分は黙秘したのに相棒が自白しちゃって、懲役10年くらった」
みたいな状態です。
また、休業しなかった飲食店なんかも前年比で売り上げ50%減とか、旅行業は売上90%減とかだったりするわけですよ。
これって、囚人のジレンマでいう
「2人とも自白しちゃって、懲役5年くらった」
みたいな状態ですよ。
「休業して売り上0のまま自粛期間延長よりは、少ないながらも売り上げ確保しつつ自粛期間延長の方がいくらかまし」
というのが
「相手だけ自白して懲役10年もらうよりは、自分も自白しちゃって懲役5年の方がまし」
みたいなイメージです。
「休業と補償はセット」と言っている人の気持ちは分からないではないです。
でもそうやってごねた結果、足並みをそろえられずに自粛期間が伸びたよねっていう感想です。
2週間分の損失を受け入れた方が傷口は浅かっただろうに。
- みんなが自粛
「囚人のジレンマ」の2人とも黙秘の状態
ダメージはあるけど最適な行動 - 自分だけ営業して、みんなが休業
「囚人のジレンマ」の自分だけ自白して、相棒は黙秘した状態
自分はノーダメージ、相棒だけ損をする - 自分だけ休業して、みんなが営業
「囚人のジレンマ」の自分が黙秘したのに、相手が自白した状態
自分だけ大損をする、ステイホーム期間伸びるので営業した人も損 - みんな営業
「囚人のジレンマ」の2人とも自白した状態
新型コロナウイルスが終息しない、全員が損をする
いまは
- 自分だけ営業して、みんなが休業
- 自分だけ休業して、みんなが営業
この2つが混ざりあった状態ですかね。
トイレットペーパーと囚人のジレンマ
トイレットペーパーの欠品も囚人のジレンマっぽいですよね。
みんな | |||
---|---|---|---|
買わない | 買う | ||
自分 | 買わない | 足りる、足りる | 足りない、足りる |
買う | 足りる、足りない | 足りる、足りない |
トイレットペーパーの買い占め騒動を振り返ってみましょう。
トイレットペーパーが自宅から無くなってから買いに行く人なんてめったにいないですよね?
普通は、何ロール分かはストックがあります。
今すぐ買いに行かないといけない人は少数派のはずだったんです。
それなのにみんなが買うから無くなるんですよ。
みんなが通常のタイミングで買えば品切れにならないはずなんですよ。
みんなが買い占めをしないパターン
みんなが買い占めをしなければ、自分も買い増しをしなくても大丈夫。
普通にいつものタイミングで買えば、自分の家のトイレットペーパーは不足しません。
自分が買い増しをしても、家の中でかさばるくらいで大きなデメリットはありません。
みんなが買い占めないのであれば、買っても買わなくてもどっちでもいいでしょう。
注:「買い占め」という言葉は、1人の人が大量購入するという意味ではなく、みんなが少しずつ購入した結果お店から品物がなくなるという意味で使っています。
- みんながトイレットペーパーを買わない
- 自分も買わない: 自分の家ではトイレットペーパー不足にならない
- 自分は買う: 自分の家ではトイレットペーパー不足にならない
みんなが買い占めをするパターン
みんなが買い占めをすると、自分が買い増しをしない場合は、いまは足りていても自宅のトイレットペーパーが完全に切れた時に買えなくなります。
みんなが買い占めをすると、自分も買い増しをしておけば、いざ品不足が発生した時に安心です。
ということで、買い占めが発生するならば、買い増しをしておく必要がでてきます。
- みんながトイレットペーパーを買う
- 自分は買わない: 自分の家ではトイレットペーパー不足
- 自分も買う: 自分の家ではトイレットペーパー不足にならない
両方のパターンをまとめ
- みんなが買い占めしない
- 自分は買っても買わなくてもどっちでもいい
- みんなが買い占めする
- 自分も買っておかないと後で困る
両方のパターンを総合すると、「買った方がいい」という結論になります。
そして、全員がそう思ったとしたら、実際に買い占めが発生してトイレットペーパーが手に入らなくなります。
全員が普通にしていれば、欠品なんてしないはずなのに……
全員が良心的な賢者ならば、買い占めは発生しないんですけどね。
一部の愚者のせいで手に入らなくなるかもと考えると、普通の人が「念のために買っておかないと」と思うのも無理はない話です。
まとめ
「全員が○○をすれば丸く収まる」というケースでも、個々人を見た場合は「××した方が得」ということがあります。
その場合は、「全員が××をしてしまい、全員が不幸」になります。
また、
「自分が損するのは覚悟のうえで、みんなで○○しようぜ」
という考えの正直者が一番損をしたりします。
悲しい……
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